2024年3月No9号

文芸誌「百花」文芸書房より発

 

百花 第9号 三省堂書店オンデマンド 

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

 

Amazon発売あり

 

作品紹介

『ただいま』 上野貴子

 

花の雨どうかこの夢さめないで

小浜にも大漁旗の春の海

瑠璃色の海へ空へ山へ飛花

ただいまと降り立つ駅に春小雨

青き踏む未来の丘のベンチまで

燕来るくるくるくるり巣の後へ

鶯の声の轟き山静か

田に水の張られ蛙の歌合戦

きっとある枯れない四つ葉のクローバー

花万朶眼裏に記憶を残し

コロナ禍に幕は引かれて花吹雪

花筏天地の輪廻風まかせ

年輪に嵐雨を刻み花さくら

桜蕊漸う納屋の屋根越える

命ある花はひととせ風の旅 

 

 

 

2023年4月No8号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

三省堂書店 オンデマンド販売 

 

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

 

Amazon発売あり

作品紹介

『万華鏡』    上野貴子          

   

幸せが幸せなのかと聞く師走    

切なさを凩が呼ぶ垣根越し

大根の煮付け何とか煮崩れず

裏表試行錯誤の年の内

輝けど銀杏黄葉の散る早さ

冬紅葉まるで都会の万華鏡

朝靄を鳥に消される冬木立 

コツコツとブーツの女の旅行鞄

口紅を忘れ師走のリモート会議

年を越え飛んでみたいな雪うさぎ

冬空を何事も無く風が鳴る

黄昏て闇夜の梟どこにいる

蒲団被り夢の続きが見たくって

一歩二歩人は歩いて年の果て

山茶花の一片夕陽よりも濃く

2022年12月No7号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

Amazonにて発売(ペーパーバック)

 

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

作品紹介

『戻らない』    上野貴子

 

白靴で歩き出す町黄昏る 

新緑の空は分かれて行き帰り

風ゆるく母を呼ぶ声金魚玉

いつからかこの場所で待つ夏の駅

待ち合わせ扇子広げて息を呑む

満開の紫陽花の朝に背を伸ばす

戻らないコロナ禍の傷夏の空

嘘のようまた紫陽花は無色から

四葩坂だれもいない雨の丘まで

石段を数えて忘れ七変化

白目高壺池の中右往左往

浮草の朝風幽光の蔭か

身に背負う傷の弱さに遠花火

浴衣着て違う世界に居るような

黒潮の九十九里浜松落葉 

2022年1月No6号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

Amazonにて発売(ペーパーバック)

 

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

作品紹介

『冬苺』    上野貴子

 

むつの花濁世を白く化粧して

大寒に一石を置く胸の内

北風が空は狭しとないている

冬苺少女はひとつ歳を取る

忘れ物今日も探して冬林檎

朝空を風の抜け道木の葉散る

静かな夜これで最後の蜜柑剥く

塩一夜朝に絞ればすずな漬け

引く鴨に子鴨遅れて昼の池

淡雪の記憶儚く手のひらに

梅が枝に吹き出す莟生きている

春キャベツ二つ四つ八つザク切りに

蝌蚪のいた小川のあたり石の橋

浅利汁口開け鍋を鳴らし呼ぶ

万物に早春の朝風はしる

 

 

 

 

 

2021年2月No5号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

Amazonにて発売(ペーパーバック)

 

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

作品紹介

『小望月』    上野貴子

 

金木犀ゆるやかな坂の記憶に

電話切るまさかの知らせ小望月

黒草履揃え服する秋の空

天高く命あるもの大地踏む

人の世の刹那に秋のふらここに

ベランダに小鳥来ている声がする

病床に三度目の秋生と死と

彼岸花真っ赤に生えて道祖神

過ぎし日の記憶に生きて秋深む

秋の蝶いつまで蔓の先探す

栗飯を炊いて今宵は妻らしく

笑顔から涙が滲む月の夜

秋別れ最後の旅の良夜なる

木の実落ちこの世の因果悔まれる

パンデミックの終焉待てず義母の逝く

 

 

 

 

 2020年9月No4号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

Amazonにて発売(ペーパーバック)

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

作品紹介

「梅雨」

 

遠吠えのいかずち去れば大夕焼け 

青柿の落ちてちゃっかり屋根の上 

券売機停止解除で水無月来る 

来るはずの無い席ひとつカフェに梅雨 

梅の実の落ちて香りを地に鎮め 

でんでんむし角があっても声はなく 

横切るは大きな黒目の白めだか 

わかわかとこぬれ瞬く初夏の風 

新緑の川上の雲に紛れて 

太公望鮎解禁はしたけれど 

気温上昇町にメロンのカット売り 

コロナ禍の逆境巣立つ燕の子 

雨蛙いるかいないか葉音聞く 

パンデミックに半年さらわれ四葩咲く 

靴音が過ぎてアスファルトに夕立  

 

 

2020年5月No3号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

Amazonにて発売(ペーパーバック)

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

 

作品の紹介

「風が鳴る」

 

花の蘂散らし自粛の雨染みる 

風光る大きなバックぶら下げて 

雨音が駈けぬけ在宅ワーク中

傷跡を未来へ残し感染拡大

今年度昨年のまま飛花落花

太陽系廻る時計は春越える

風が鳴る日本列島ひと跨ぎ

それぞれが不安を抱え朧月

不忍の池に人影無く糸柳

一片の心引き裂く花の雨

ベンチには誰も来てない花の池

パンデミック予想のつかぬ夏が来る

白バラの莟みが見てる空巣箱

風光る都市に閉鎖の危機迫る

休業の貼り紙増える満天星

 

 

2020年3月No2号

文芸誌「百花」文芸書房より発売

主にAmazonにて販売

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

 

表紙に名前とタイトル表示

作品のご紹介

「梅か桜か」

 

この星のこの空をゆく真綿雲

ななくさのななしゅをこえて花菜さく

地に降りて涙の凍る白銀河

春の雨人生一度悲喜こもごも

花か実か梅か桜か人の世に

まだ莟いつか実となる梅が枝に

色の無く縦横無尽に風が鳴く

突然の来客梅が香を連れて

曲がり角ひとつ手前で梅香る

いつの間に少女は白髪春が来る

立ち止まることは無いはず春ショール

叫んでる声はどこかで聞いた声

終わらないレースだってある春泥

ハードルが高い低いと春の杯

真っ直ぐに挫けてなるか春歩む

 

 

2020年新春増刊号

今年待望の文芸誌「百花」文芸書房より発売開始!

主にAmazonより発売

 

幅広い文芸作品のアンソロジー

 

カラフルな表紙に

内容は落ち着いた文芸各分野の作品が収録

 

 

 

作品のご紹介

「春めく」

 

はしがきを早春の風としるして

黄水仙一輪のみの廊の寂

裾さばき慣れぬ乙女か枝垂れ梅

春めくをときめく旅のはじまりと

陽に目覚めそよぐそよ風春の風

春だ春小さな春の芽を守り

生まれ出る春をはぐくみ根をのばす

菜の花の十字の先を空と海

春はあけぼの闇を追掛け星の影

譜をはずし又譜をなぞる初鶯

山々を春の遠吠え駆け抜ける

東風強く引き裂く宙の北斗星

チューリップ朝は無口な部屋の隅

桜散る散るを現の船出とし

砂浜に素足の傷みさくら貝

 

2020年角川より月刊誌

「俳句」4月号に掲載

今日の俳人コーナー新作7句

作品のご紹介

「2020・梅の頃に」

 

尖っていたのかな青春の頃

早梅の風にじっとはしてられず

さよならが言えればきっとまた会える

梅が香の便りは今も優しくて

梅は莟白いか赤いか開くまで

梅咲けばいつも別れの予感して

気負わない人生もある梅見酒