2000年
悲しくなんかないけれど夕暮れ
こんなにも横浜が近いあなた
さよならなんて言えないのかな 私
海が夏色だからあなたといる
海風に薔薇の競演プロローグ
もどれない時を海鳥波に消し
降り出した雨にベンチを去りがたく
横浜の風が二人の肩寄せる
こんな日が別のあなたとあったよな
守りたいとあなたが言った5月27日
解説
俳句日記をまとめはじめた頃の作品。
初蝶よ夢の続きを話そうか
悲しくもありこんな幸せな夕立
踏み出せばここより影の冬の月
春ショールみんな忘れて晴れやかに
啓蟄に気がつきませぬアスファルト
夕ぐれてうすば蜉蝣(かげろう)かすかなり
百千鳥それどころではありませぬ
すぐそこに秋が来ている星の夜
竹林に雨のいぶせき十二月
春小袖海の町へとハイウエー
新涼の銚子灯台九十九段
路地裏の地蔵をあやす猫じゃらし
春うらら何かありそで無きうらら
とりとめのなき切なさに紅葉散る
句日記の日付を入れる年の暮れ
フライトの時刻変更霧深し
雲の降るみどりの森の小道ゆく
短夜の気付けばTVつけたまま
寄せ返す波とワルツを春の貝
幾重にも花のクレパス安房の春
雨が降る降る降る雨が秋を呼ぶ
花の雲駅へとつなぐ路線バス
古扇過ぎし記憶の風を呼ぶ
枇杷の種コロリと宵の台所
大空が近づいて来るすみれ草
ぜんまいの綿毛のの字にあどけなく
掌に乗せれば軽くまつぼっくり
今日惜しむ咲く花に又散る花に
波白くココナツ甘く島の宿
ふたつみつ星に指折る天道虫
2011年
天と地の怒りか春の宵迫る
余震なく朝餉を済ます彼岸明け
切々と大地へ花の涙散る
ともすれば桜忘れる東人
躓けば野苺の花手のひらに
解説
俳句日記を書き始めて二十年以上の月日が経ち、すっかり毎日の生活の日課となっている。思い返してみると記録的な激動の10年間。
2012年
北限の灯台低く冬岬
片目入れ祈りあらたな福達磨
淡雪に音無く過去は帰らざる
土筆ん坊空にはスカイツリー建つ
セーターをざっくり被り厨事
2013年
事毎に陽の柔らかく蛙の子
鳴く声の一羽にあらず鴉の子
蒼く碧くどこまでも空は爽やか
2014年
月赤く地球の影と鬼ごっこ
読みかけたページの栞文化の日
年の瀬の信号破る消防車
2015年
親鹿を真似て小鹿の草むしり
西瓜食むただひたすらにひたむきに
いつまでも母の手を振る鳳仙花
2016年
命あるものの営みつばくらめ
山手線花の駅より発車ベル
鯵干され陽の長々と浜の午後
2017年
訳もなく訳を探して山桜
泣く声の止んで幼のお萩食む
青さんま北の脂に火の粉飛ぶ
2018年
深大寺日傘畳んで手を合わす
朝が来る落葉掻き分け風の道
冬銀河地球に立っている不思議
2019年
咳ひとつ寒の戻りと衿立てる
しばらくの蛇口開けば水温む
闇雲に夢をさらって熱帯夜
2020年
新型のウイルス旋風梅の散る
帰り道エコバックにも黄葉散る
逆光を自転車で行く年用意