俳句ダイアリー

2000年

 

悲しくなんかないけれど夕暮れ
こんなにも横浜が近いあなた
さよならなんて言えないのかな 私
海が夏色だからあなたといる
海風に薔薇の競演プロローグ
もどれない時を海鳥波に消し
降り出した雨にベンチを去りがたく
横浜の風が二人の肩寄せる
こんな日が別のあなたとあったよな
守りたいとあなたが言った5月27日 

 

解説

俳句日記をまとめはじめた頃の作品。

 


2001年

初蝶よ夢の続きを話そうか 

悲しくもありこんな幸せな夕立

踏み出せばここより影の冬の月

2002年

春ショールみんな忘れて晴れやかに

啓蟄に気がつきませぬアスファルト

夕ぐれてうすば蜉蝣(かげろう)かすかなり

2003年

百千鳥それどころではありませぬ

すぐそこに秋が来ている星の夜

竹林に雨のいぶせき十二月

 


2004年

春小袖海の町へとハイウエー

新涼の銚子灯台九十九段
路地裏の地蔵をあやす猫じゃらし

 

2005年

春うらら何かありそで無きうらら

とりとめのなき切なさに紅葉散る

句日記の日付を入れる年の暮れ

 

2006年

フライトの時刻変更霧深し

雲の降るみどりの森の小道ゆく 

短夜の気付けばTVつけたまま

 


2007年

寄せ返す波とワルツを春の貝

幾重にも花のクレパス安房の春

雨が降る降る降る雨が秋を呼ぶ

 

2008年

花の雲駅へとつなぐ路線バス
古扇過ぎし記憶の風を呼ぶ

枇杷の種コロリと宵の台所

 

 

2009年

大空が近づいて来るすみれ草

ぜんまいの綿毛のの字にあどけなく 

掌に乗せれば軽くまつぼっくり


2010年


今日惜しむ咲く花に又散る花に

波白くココナツ甘く島の宿

ふたつみつ星に指折る天道虫

 

 

俳句ダイアリーNo2

2011年
 

天と地の怒りか春の宵迫る

余震なく朝餉を済ます彼岸明け

切々と大地へ花の涙散る

ともすれば桜忘れる東人

躓けば野苺の花手のひらに

 

解説 

俳句日記を書き始めて二十年以上の月日が経ち、すっかり毎日の生活の日課となっている。思い返してみると記録的な激動の10年間。

2012年

北限の灯台低く冬岬

片目入れ祈りあらたな福達磨

淡雪に音無く過去は帰らざる

土筆ん坊空にはスカイツリー建つ

セーターをざっくり被り厨事

 

 

2013年

事毎に陽の柔らかく蛙の子

鳴く声の一羽にあらず鴉の子

蒼く碧くどこまでも空は爽やか

 

2014年

月赤く地球の影と鬼ごっこ

読みかけたページの栞文化の日

年の瀬の信号破る消防車

 


2015年

親鹿を真似て小鹿の草むしり

西瓜食むただひたすらにひたむきに

いつまでも母の手を振る鳳仙花

 

 

2016年

命あるものの営みつばくらめ

山手線花の駅より発車ベル

鯵干され陽の長々と浜の午後

2017年

訳もなく訳を探して山桜

泣く声の止んで幼のお萩食む

青さんま北の脂に火の粉飛ぶ


2018年

深大寺日傘畳んで手を合わす

朝が来る落葉掻き分け風の道

冬銀河地球に立っている不思議

2019年

咳ひとつ寒の戻りと衿立てる

しばらくの蛇口開けば水温む

闇雲に夢をさらって熱帯夜

2020年

新型のウイルス旋風梅の散る

帰り道エコバックにも黄葉散る

逆光を自転車で行く年用意


 

ブログ版上野貴子全集2011~  gooブログ「曇りのち晴れ」